Vol. 4

友情結婚当事者から観た「恋せぬふたり」

投稿日

2022.02.03

更新日

2022.08.12

こんにちは。カラーズに入会し、友情結婚(成婚退会)しました、佐藤と申します。

1月からNHKで「恋せぬふたり」というドラマが放映されています。カラーズブログの読者様の中でも、注目されている方は多いのではないでしょうか。
このドラマの主人公の女性・咲子(さくこ)は、ふとしたときに自分が「アロマンティック・アセクシャル」であることに気づきます。同じくアロマ・アセクである男性・羽(さとる)と出会い、二人は同居生活を始めることになり———というあらすじです。
私がこれを書いている時点で第4話まで放送されています。今のところ二人は結婚まではしていませんが、友情結婚当事者から観たドラマの感想を書いていきたいと思います。

以降、ネタバレを含みますのでご注意ください。

目次

全体的な印象

全8話の中で半分が放映されましたが、話数が少なくかつ30分という短いドラマの中で、できうる限り丁寧にアロマンティック・アセクシャルについて説明され、その特徴を得たキャラクター設定がされているなという印象がありました。
尺の限界があるので、どうしても急な展開があったり、所謂ドラマ的な表現もあったりしましたが、そこは仕方がないのかなと思います。台詞選びなんかも、当事者にはぐっと胸に刺さるものもあったりしました。
必ずしもすべてのアロマ・アセクの方に当てはまるわけではないですが、当事者以外の方にもアロマ・アセクの大まかな特徴として理解していただける描き方がされているのではないかと思います。

胸に刺さった台詞①「私って変なのかな」

咲子は昔から彼氏と関係が続かず、恋愛話にもついていけない女性でした。今は仕事を頑張っていますが、家族や会社の上司・後輩からも恋愛や結婚について色々と言われてしまう年齢です。
また、同性の友達とルームシェアをする予定でしたが、友達が恋人と同棲することになってしまいます。友達は咲子に「運命の人に出会えるといいね」と声をかけ、咲子の元を離れていきます。
咲子は、人を好きになるという感情がわかりません。
そこでポツリと呟いた、咲子の「私って変なのかな」という台詞はとても共感できるものでした。

私はノンセクシャルなので、アセクシャルの咲子とは違い、恋愛的に人を好きだと思う感情があります。けれど、よくある恋愛ドラマほどではなく、べったり一緒にくっついていたいとは思いません。なので、恋愛感情は薄い方かもしれません。
運よくお付き合いができても、その先に待っている性行為はできませんし、そういう感情・思考がそもそもありません。
誰が悪いわけでもなく、無理しているわけでもなく、自分が自分のままに過ごしているだけなのに、どうやら他の人は私と違う———もしかして、私って変?と何度も思いました。
そういった戸惑いと不安は、咲子も同じだったのだろうととても共感しました。

胸に刺さった台詞②「一緒に住む理由ある?」

咲子は羽と同居生活を始めることにしたのですが、咲子の母親が二人が恋人同士ではなく、アロマ・アセク同士で一緒に住んでいると知ったとき、こう言いました。
「好き同士でない男女が、一緒に住む理由ある?」

正直、ぐさりと胸に刺さりました。
例えば同性愛者同士なら、「好きだから一緒にいたい」という感情がありますし、少しずつ世の中の理解も深まってきていると感じます。
アロマ・アセク同士にはそれがありません。ならば、どうして一緒に住まないといけないのか———確かに、そう思われて当然かもしれません。
それでも、一緒に住む理由ってなんだろうと考えさせられました。私なりの考えは後述します。

実際の友情結婚と比べて

咲子と羽の生活は、まさしく私とパートナーの高橋さん(偶然にも羽の苗字も高橋ですね。わかりにくくてすみません)との生活に似ています。
お互い仕事があり、家事は話し合って分担して、お金のことも年収を開示してきちんと話し合います。また、セクシャリティに関して、お互いどこまで許容できるか二人は情報を出し合うのですが、まさしくカラーズの「話し合い冊子」ですよね。
羽は他人と手を繋ぐことすら憚られるけれど、咲子はなんとか性行為はできます。同じアロマ・アセクでも、許容範囲は違うんですよね。
友情結婚においても、そういう情報の出し合いや話し合いはとても大事だと思います。
私と高橋さんは結婚してしばらく経ちますが、話し合いたいことがあればどんどん言って解決していきます。こうして欲しい、これは嫌だった、などときちんと伝えることで、「これくらい察してよ」というトラブルも少なくなります。
好きだから許そう、甘やかそう、という感情が無い分、友情結婚は理性的なのかもしれません。

私たちは家族に「なっていった」

私はいずれ子どもを授かりたいと思っていたので、異性と結婚することにしました。そして高橋さんと戸籍を共にし、一般的な「家族」になりました。けれど、恋愛感情はありません。ドラマの咲子と羽と一緒です。
でも、「家族」です。「家族」になっていった、というのが正しいかもしれません。

同居し始めて最初の頃は、やはり他人同士で住んでいる感じがありました。部屋も別々ですし、出勤や退勤の時間がバラバラだったので食事も別で、一緒に行動することがあまり多くありませんでした。
きっかけは、子どもの存在が大きかったように思います。
私が妊娠をしてつわりで体調を崩しているときは、高橋さんが家事を引き受けてくれたり、かなり助けてもらいました。子どもが産まれてからは、それこそ二人三脚で日々頑張って暮らしています。
一人と一人の人間であることは変わらないのですが、共通の宝物を一緒になって大事にしていくことで、私と高橋さんとの絆もぐんと強くなったと感じます。

家族ってなんだろう

「家族」になるというのは、異性の好き同士で戸籍を共にする、という定義だけでは収まらないと思います。
また、子どもがいないと「家族」ではない、とも思いません。
私がもし子どもを産めない身体だったとしても(養子縁組などで母になるという選択肢を除いて)、誰かと結婚するという選択肢をとっていただろうなと思います。
親を安心させたい、世間体を考えて、という一面もありますが、誰かと一緒に過ごしたいという気持ちがどこかにあるからです。前述した体面のことを気にしなければ、異性と結婚という形を取らなくても、同性同士でも良かったと思います。

誰かと一緒にいる理由

ドラマの中で、羽が集めているポイントカードの引換期限が今日までで、咲子と協力して引き換えをしに商店街を駆け回るシーンがあります。咲子と羽は、思わぬ楽しさを覚えます。
また、羽は咲子がいてくれるおかげで、一人では億劫だった手打ちうどんを作ろうと思えて、朝ご飯に美味しいうどんを食べられる、と言います。

一緒にいる理由なんて、それでいいんじゃないかと思うんです。
友情結婚活動をしていても、恋愛感情がないと結局どう相手を選んでいいのかわからないときもあるかと思います。けれど、恋愛感情があってもなくても一緒なのではないかと、私は思うのです。
自分が自分らしくいられて、一緒にいて苦でない人で。楽しいことも辛いことも共有してくれそうな相手であれば、誰とでも「家族」にはなりえるのではないでしょうか。
例えば食の好みや趣味が違っても、試してみたら意外と良くて、自分の世界が広がることもあります。お互い刺激し合って、日々協力して過ごしたら、だんだんとチームワークが生まれます。そこに恋愛感情がなくたって、お互いの存在が足し算や掛け算になるのであれば、一緒にいる理由は十分にあると思います。

sato
著者:佐藤

10代でノンセクシャルを知り、20代で恋愛結婚はできないと断念。一念発起してカラーズに入会後、友情結婚(成婚退会)しました。人工授精で子どもを授かり、現在は夫の高橋さんと協力しながら子育て真っ最中。元友情結婚活動者、結婚当事者のリアルな姿をお届けします。