
LGBT・マイノリティ
「結婚しても、セックスはしない」――そんな結婚の形がある。
友情結婚専門の結婚相談所『カラーズ』を10年以上運営し、300組以上のカップルを成婚に導いてきた中村光沙さんの著書『恋愛・セックスはいらない 「友情結婚」新しい結婚の選択肢』(幻冬社)は、これまでの“当たり前の結婚観”を静かに揺さぶる一冊だ。
本書で語られるのは、恋愛感情や性的関係を前提としない、フラットなパートナーシップ=友情結婚について。
恋愛をしない、あるいはセックスに興味がない——そんな人たちが、「それでも誰かと生きていきたい」と願うとき、どんな関係性があり得るのか。その具体的な実例や心理的背景、そして社会制度とのギャップが、丹念に描かれた一冊だ。
とくに印象的なのは、第1章で語られる「カミングアウトしないという選択肢」(P19)。
性的マイノリティの人々の多くは、自分のセクシャリティについて周囲に理解してもらいたいと考えている——そんな勘違いに対し、「あえてカミングアウトしない人もいる」という指摘は、まさに目から鱗だった。
中村さんは言う。「今の日本社会において、セクシャリティをオープンにすることに特段のメリットを感じていない人が多いからです。(中略)「あえてする必要がない」「カミングアウトしなくても特に困らない」と考えている人が大勢います」(P19)。
“わかってもらうこと”だけが、幸福の条件ではない。むしろ、誤解や偏見にさらされるリスクを避けながら、穏やかに暮らすことを選ぶ人もいるのだ。
その姿勢は「声を上げる勇気」ではなく、「声を上げない自由」でもある。読んでいると、自分の生き方を“理解されるため”ではなく、“守るため”に選び取っていいのだと気づかされる。
第4章で紹介されている、実際に友情結婚をした3組の成婚者についてのエピソードも興味深い。
たとえば、家事も育児も完全に分業している夫婦の話。感情のアップダウンで衝突することもなく、ルールによってお互いの生活を尊重し合っている。「ありがとう」や「ごめんね」といった情的なコミュニケーションよりも、「どうすれば快適に共存できるか」という実務的な思考が、関係を支えているように思える。
そんなやりとりは、はたから見ると冷たさに映る場合もあるかもしれない。しかし、少し視点を変えれば、お互いのことを尊重し意見を汲み合うやりとりは、まさに誠実さの表れだと思える。
恋愛的な熱量よりも、「生活における信頼」で繋がる関係。中村さんはそれを、“愛の一形態”として描いている。友情結婚においては「感情をベースにしない」からこそ、関係が透明で、持続可能なのだ。
友情結婚を選ぶ人々に共通しているのは、「誰と生きるか」よりも「どう生きたいか」を明確にしている点だ。恋愛感情や性的欲求に左右されないからこそ、家計の管理、家事の分担、将来の生活設計について冷静に話し合える。
つまり、友情結婚とは「生活の共同経営」であり、「信頼で支えるチーム運営」でもある。
そのリアリティが、本書の魅力を際立たせている。
一方で、友情結婚は「恋愛の放棄」ではない。むしろ、恋愛や性を絶対的な基準としない新しい“つながりの可能性”を模索する試みなのだ。
恋愛しない人も、恋愛できない人も、誰かと生きることを望んでいい——。中村さんは、その願いを“制度の外にある希望”として言葉にしている。
『恋愛・セックスはいらない 「友情結婚」新しい結婚の選択肢』は、友情結婚という制度的な説明書であると同時に、現代社会への静かな問いかけでもある。
恋愛を前提とする世界で生きづらさを抱える人々が、ようやく自分のままでいられる関係を見つけられる場所——それが友情結婚の意味なのだ。
「誰もが幸せを望んでいい」。その言葉の裏には、「他者の理解がなくても、自分の幸せを築いていい」というメッセージがある。
友情結婚は“特別な人たちの話”ではない。それは、私たち一人ひとりが「自分らしい関係のかたち」を取り戻していくための、もう一つの道なのだ。
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